「お母さん、今日はもうストーブ消しといて」

その申し出を聞き、お母さんはくりくりとした丸い目を更に丸くさせた。

「えぇー、何言ってるのよ。そんなことしたら、洗濯物も乾かないじゃない」

「うっ、....」


そのせいで家族全員が死ぬ、なんて口が裂けても言えないけど....。


でも、引き下がる訳にはいかない。


「あ、あのね、私、昨日の夜に火事で死ぬ夢を見たの!だからお願い、今日はもうストーブ消して!お願いお願いお願い!洗濯物なんて、明日でも良いじゃん! 」


あー怖いよー死にたくないよー、なんて往生際悪く叫び声を上げていると、観念したのかお母さんはパタパタとスリッパを鳴らしてストーブの火を消した。


「分かった分かった、今日だけよ? 」

ほぅ、と安堵のため息を吐くとお父さんが玄関の扉を開ける音が聞こえた。


「ただいまー。....って、あれ?あんまり暖かくないなぁ?なんでだ? 」

「あら、貴方おかえりなさい。さっきアイが駄々こねて、ストーブ消したのよ」

ソファの後ろではお父さんがなんやかんやと反論してきたが、私は意見を曲げなかった。


何かとブーブー文句をつけられたが、これで良いんだと自分に言い聞かせた。



これで家族を救えたんだ、と。


あの”死の手紙”に、感謝すらした。