通学路を歩きながら、どこか不機嫌な彼。

私はツイツイッとブレザーを引いて、レンに声を掛ける。

「ねぇねぇ、レン?」

「なんだよ」

「助けに来てくれて、ありがとう」

張り詰めた空気が、いつもの日常に戻っていく。


「でも一歩間違えば、レンだって死んでたかも知れないんだよ?あんまり私を庇ってても、レンの命がいくらあっても、足りないよ。だから、その、」


そう忠告を促せば、犬が匂いを嗅ぐよりも先に助けに来てくれた彼が、溜息を吐いて首を左右に振る。


「『自らの危険を犯してまで、もう私を助けるな』って言いたいのか?身体が咄嗟に動いてたんだから、仕方ないだろ。くだらないこと言ってないで、さっさと学校行くぞ」


「え、うん....ありがとう」



この時はまだ、朝の不気味な手紙のことを100%は信じていなかった。

「レンってさ、カッコ良いよね」

「いきなり何だよ。っつか、アイがその鈍臭い性格を治してくれたら、俺の苦労も少しは減るんだけど」

「うわ、酷い!」

「冗談だよ」


好きな人の隣を歩ける幸せを噛み締めながら、いつも通り学校に、日常に、明日に、未来に向かって、進んでいく。


しかしこれから起きる偶然の数々に、私は嫌でも”死の手紙”のことを、信じざる得なくなる。