ー....同時刻、人身事故の起きた車内では...ー


3人目の通り魔となる運命であった社会人、小森 迅というスーツ姿の男が、車内で足止めを喰らっていた。

社会人2年目、競争の激しい会社で荒波に飲まれ、仕事に対し強迫観念に囚われつつある男である。


「くっそ、何止まってんだよ、電車……。会社に遅れるだろうが」

吊り革に掴まりながら、貧乏揺すりと舌打ちをかます。

小森の目の下には、巨大な隈が出来ていた。

知らず知らずのうちの無理が祟って、身体は現界に近い状態だったのだ。


その疲労が溜まり、ついには身体を壊し、12月3日に通り魔となるのだが……


会社に遅刻するとの電話を入れた直後、受話器向こうの上司からある言葉を掛けられる。


「小森くん。君、最近頑張り過ぎだよ。遅延は誰も怒らないから、たまには心落ち着かせてゆっくりおいで」

「え、良いんですか」

「普段から君が頑張っていることは、みんな知っているよ。そんなに気負う必要はないさ。だから、切羽詰まる前に息抜きもしなさい。有休も使って良いからね。ま、続きは会社に来てからだな」

「あ、ありがとうございます! 」

密かに自分を見ていてくれた上司からの温かな言葉に涙し、彼の心は救われ始める。


その後、小森は有休をもらい、身体を休めるのだった。