殺人鬼からのラブレター

ー....同時刻、彼らの後方では...ー


加藤 愛に付きまとっていたストーカー、岸和田 雄馬は学生たちの登下校を、マンションの廊下から眺めていた。


が、妄信的に慕っていた女子高生の死を小さく目撃してしまい、その場にうな垂れる。



「嘘だ。僕のアイちゃんが、そんな……嘘だ嘘だ嘘だ」


頭を大きく振り被り、他人同然の彼が、目の前の死を嘆いていると。



「あの、大丈夫ですか? 」


近くを通りかかり、岸和田 雄馬が嘆いている理由をまだ知らない才色兼備な若いOLが、彼に声を掛けた。


差し伸ばされた白いレースのハンカチと、控えめな香水の香り。

岸和田 雄馬には彼女が、天使に見えた。


自分と同じく廊下に屈むOLが偶然開いていた携帯のSNSの画面を確認し、彼女の名前を知ったストーカー男は、ニヤリと笑みを浮かべる。


「あ、あぁ、すみません。ありがとうございます」


すかさずもう一度携帯の画面をチェックして、頭の中で何度も彼女の名前を繰り返し、脳に刷り込む。

「何があったのか分からないけど、元気出して。私も今から出勤なのに、電車が止まってて……困ったなぁ」


「そうなんですかぁ、大変ですね」


(嗚呼、アイちゃんの代わりになる、新しいターゲット....見ぃーつけたっ)


彼はそう思いながら、品物を見定めるような瞳で、目の前の親切なOLを見つめていた……。