「……やめろ、」


自転車を止めて片足を着いた福田 幸枝の真正面から、鈍い光を放ちながら包丁が迫ってゆく。

「やめろ、」

福田 幸枝は自転車を放り投げて逃げようと駆け出す。


彼女が死ねば、アイが死ぬ。


自責の念に駆られてまたアイが、死ぬ。助けたい命が消える。

伸ばした手は、本当に助けたい人に届かない。

スーツ姿の通り魔に腕を掴まれ、福田 幸枝は恐怖に引き攣った顔で振り返る。


「もう、やめてくれーーっ!! 」


俺は通り魔と福田 幸枝の間に、身体を滑り込ませた。

「レ、レンくんっ?! 」


福田 幸枝の驚いた声と同時に、ドスッ、と何かが貫通した鈍い音が、腹部に生じる。