ぐらりと揺れる脳内に、しっかりしろと気合を入れ直す。


掴んでいた包丁が血で濡れた手の平から滑り、地面に落ちた。


「は、ははっ……」


これでもう12月3日に通り魔が発生することはない。

アイも福田 幸枝も死なない。

ついに12月3日を、越えられる。

そう思えば思う程、胸に広がる罪悪感と虚無感。

気が付くと俺の手や身体は、男から溢れ出た鮮血で真っ赤に染め上げられていた。

「……俺は、……」



……なぁ、タケ。お前、俺に言ったよな。


『どうしてアイを救う役目が、レンなんだ』って。

本当、なんでなんだろうな。

これじゃぁまるで、タケが言った通り”殺人鬼”だ。

濁る瞳で男の死体を見つめながら、バシャリと地面に膝をつける。


「タケ、お前ならもっと上手く、アイを……救えるのか……? 」


蚊の鳴くような声で呟いたその言葉は誰にも聞こえずに、生命が活動を始める朝日の煌めきの中に溶けていった。