「アイ……? 」

俺は外履きのまま、叫び声が聞こえた方向に走った。

何故か景色が水彩絵の具が水に溶かされるように、ぼんやりと、じんわりと、霞み、歪んでいく。

「なんだ、これ……。視界が……」

防火扉の角を曲がると、階段のすぐ側には。


目を見開き、四肢があらぬ方向に折れ曲がっている、アイの姿が。

「あ、アイ……」

両耳から出血している彼女は、変な方向に首を曲げたまま、ピクリとも動かない。


他の教室からも生徒達が集まってきては、皆悲鳴を上げる。

階段を見上げると、転がり落ちたアイの血が点々と付着していた。

俺の意識はちゃんとあるのに、徐々に景色が遠のいてゆく。

「なんでっ、……」

足が地から生えた誰かの手に掴まれたかのように、動かない。


見開いた瞳で俺を見つめる彼女の口が、微かに動く。


「……たすけ、て……。レン…… 」