漂う嫌悪、彷徨う感情。


それは、オレにとっては好都合。

「良かったです。 木原さんの件はオレが彼女を説得しますので、みんなには黙っていて頂けますか?? 今木原さんに抜けられるのは困るじゃないですか。 彼女、素早く正確に仕事出来る人だから」

「・・・確かに木原さんの仕事ぶりは素晴らしいと思うよ。 ・・・でもねぇ。 事情が事情だし、やり辛いでしょ。 佐藤くんも木原さんも周りのみんなも。 再来週には少し時間出来るから、それまで、ね」

『心配しなくても大丈夫だよ』とウインクをする部長。

ウインクをするおっさんは、なかなかキモイ。

「その事情、違いますから!!」

部長のキモさにサブイボを堪えながら訂正を試みるも、

「えー?? ガセなの?? あの噂。 じゃあなんで木原さんは『辞めたい』って言ってるの?? あ、寿退社?? 木原さんは専業主婦になりたいわけだ。 佐藤くんは共働きしたいの??」

美紗が盛大に嘘を広めたせいで、部長の質問が何一つ真実に掠りもしていない始末で、どこから手を付けて良いのか分からない。