「はぁ・・・」
無意識の溜息を吐いてオレも会議室を出ると、自分のデスクを通り過ぎ、少し離れた所にある部長のデスクへと向かう。
オレに泣いている時間などなかった。 泣いている場合ではない。
資料に目を通しながら『うーん』と唸る部長に話しかける。
「部長、お忙しいところすみません。 お話したい事があるので、御手隙の際に少しだけお時間頂けないでしょうか??」
「あ、佐藤くん。 別に今話してくれていいんだけど・・・色々大変みたいだね。 大丈夫??」
部長は持っていた資料をデスクに置くと、オレに気の毒そうな顔をした。
「大丈夫です。 仕事も順調です。 商談も上手く行きました。 ・・・あの、今日木原さんから色々相談を受けたかと思うのですが、その事はまだみんなにはお話されてませんでしょうか??」
「商談、成功したの?!! さーすーが、佐藤くん!! ・・・木原さんの件ねー。 木原さんの為にも佐藤くんの為にも、早くしなきゃとは思ってるんだけどねー・・・ちょっと今忙しくて、なかなかすぐに代わりを見つけるのが厳しくてねー・・・なーんにも決まってないからまだみんなには言ってないんだー。 気まずいだろうけど、もう少し待って欲しいんだよねー」
『ごめんねー』と苦笑いしながら微かに残る綿毛の様なものが生えている頭をポリポリ掻く部長。
部長は見た目も喋りもユルいが、仕事はカナリ出来る。 だから部長なのだけれども。 多くの仕事と部下の責任を一身に抱えている部長は今、美紗の後任探しの案件を人事に相談する時間がないようだ。



