漂う嫌悪、彷徨う感情。



---------上手く商談を纏め、意気揚々と会社に帰る。

「ただいま戻りましたー」

自分のデスクに行き、パソコンを立ち上げていると、

「・・・聞いたぞ、佐藤。 木原さんの浮気が発覚して結婚ダメになったんだってな。 木原さん、おとなしそうな顔してなかなかやるね。 今日、課の若手だけで飲みに行くかって話になってるんだけど、佐藤も来るよな?? てか、オマエの励まし会みたいなモンだから強制参加な。 大丈夫!! 木原さんには悪いけど、木原さんには声掛けてないから」

隣のデスクの同期・岡本がイス滑らせながらオレに近付いてきた。

「・・・は?!! 何の話だよ?!! 誰がそんな事」

『ふざけてんのか』と岡本の顎を鷲掴むと、

「小田さんが言ってたんだよ。 『さっき本人から聞いて自分も驚いた』って言ってた」

岡本が、オレに顎を押さえつけられて変形した唇を動かして噂を流した犯人をバラした。

小田さんは美紗の同期で、美紗と同じく営業事務の女子社員。

見るからに男友達の多そうな彼女は、営業の男性社員ともよく会話をするコで、営業と事務の橋渡し的な役割をしている。

小田さんと美紗は正反対なタイプだが、同期という事もあり、相談し助け合いながら仕事をしているせいか、2人は仲が良い。

その小田さんがいる事務員さんたちのデスクの方に目をやると、明らかにへんな空気が流れていて、どう見ても美紗が仲間はずれにされていた。