「うん。 もうそろそろ出ないと。 また今度・・・「もう行ってください。 遅れちゃいます」
『また今度ゆっくり話そう』と言いかけたオレを、美紗が遮った。
この言葉を、1秒も要しないこの言葉を、何故言わなかったのかと後々後悔するなんて思いもしなかったオレは、帰ってきてから言おうと飲み込んでしまった。
「じゃあオレ、ちょっと出てくるわ」
「あ、佐藤さん。 ワタシが真琴ちゃんにいじめられてたって事は、誰にも言わないでください。 いじめられっ子ってレッテル貼られるの、嫌なので。 ワタシにも一応プライドがあるので」
会議室を出ようとしたオレの腕を美紗が掴んだ。
この時、バカなオレは『美紗の名誉を守る為』と思い、
「分かったよ。 絶対に言わないから」
すべきでない約束してしまった。
オレの返事にホッとしたのか、
「ありがとうございます。 引き止めてすみません。 お仕事、頑張ってきてください。 行ってらっしゃい」
少し微笑むと、オレの腕から手を放し、その手を横に振った。
何日かぶりに見た美紗の笑顔に嬉しくなって、
「うん。 頑張ってくる。 行ってきます」
美紗に手を振り返して会議室を出た。
オレがいない間に、美紗がとんでもない動きをするなんて、考えもしなかった。



