漂う嫌悪、彷徨う感情。


いかんいかん。 ワタシは今日、現実から脱走し非日常を味わいにここに来たんだ。

瞼をぎゅうっと閉じ、ビールの入ったグラスを掴むと、頭に浮かんできてしまう勇太くんの姿を払拭しようと、グラスの中のビールを一気した。

「飲むねー、美紗ちゃん」

日下さんが、ワタシの空いたグラスにビールを注ぎ足した。

「飲みますよ。 日下さんもガンガン飲みましょうよ」

自分だけが勢いよく飲んでしまっている事が何となく恥ずかしくて、日下さんにビール瓶を向け、飲む様に促す。

「オレ、料理も酒もゆっくり味わいたいタイプ」

が、日下さんは自分のグラスに手で蓋をし、ビールの注ぎ足しを阻止した。

「ですよね。 急いで飲んだり食べたりするの、もったいないですよね」

正直ワタシだって、こんなに美味しい料理をビールをガブ飲みしながら食べたいわけではない。

ビール瓶を置き、箸を持ち直すと、カラっと揚がった天ぷらを口に入れた。

本当に、何を食べても美味しい。

「美味しいね、美紗ちゃん」

日下さんが笑顔で同意を求めた。

「最高に美味しいですね」

同じものを食べ、同じ感想を言い合う事は、心がほんわかする。

『美味しいね、勇太くん』。 勇太くんが同じものを食べているのなら、勇太くんにも言いたかった。

やっぱり、お酒でなんか勇太くんを忘れる事は出来ない。