「・・・また後で見に来ますから」
勇太くんの手を振り解こうと、手に力を入れて引っ張ってみるが、勇太くんの手は離れない。
「・・・ふざけんなよ。 なんで他の男と温泉に来てるんだよ」
勇太くんが、痛いくらいに強くワタシの手を握る。
「・・・美紗に嫌味を言いたくてここに来たわけじゃないのに。
・・・オレとの事、美紗の中では終わった事かもしれないけど、オレは全然諦められない。 終わらせられない。
・・・和馬くんの言ってた通りだよ。 真琴に聞いたんだ。 美紗と和馬くんが今日、この旅館に泊まる事。 真琴に頼んで、美紗たちの隣の部屋を取ってもらったんだ。 大丈夫。 本当に真琴はいない。 オレひとりだけ。 オレ、ひとりで来たんだ。 そんな事をしたって何も出来ないし、どうにもならないって分かってたんだけど、居てもたってもいられなかった。 どうにかして美紗と話したかった。 和馬くんに美紗を取られたくなかった。 美紗と話すチャンスが欲しくて、美紗が1人でここを通るの、ずっと待ってたんだ。
・・・今、めっさ後悔してる。 旅館なんか来なきゃ良かった。 隣の部屋で美紗と和馬くんが2人で寝るかと思うと、気が狂いそう。
・・・何やってるんだろうな、オレ。 まじしょうもない。 美紗の嫌がる事しかしてないな、オレ。
・・・お土産選び、邪魔してごめん。 試食するくらいだから、他のおまんじゅうと迷ってたんだろ?? どれ?? 美紗、つぶあん好きだから、コレ?? 1口食べな。 残りはオレが食うから」
勇太くんが右手でワタシの手を掴んだまま、左手で『新商品』の試食用のおまんじゅうが刺さった爪楊枝を取り、ワタシに手渡した。



