漂う嫌悪、彷徨う感情。


「では、ごゆっくりお寛ぎくださいませ」

お茶を出し終え、夕食の時間をワタシたちに伝えると、仲居さんは下がって行った。

仲居さんが作ってくれたお茶を美味しく頂くと、

「さて。 ワタシはお風呂に行きますが、日下さんはどうします??」

早速クローゼットを開け、浴衣とタオルセットを手に取った。

「もう入るの?? 美紗ちゃん、何回入るつもり??」

運転疲れか、畳の上に寝転がって動こうとしない日下さん。 おそらく日下さんは、まだ温泉に浸かる気分ではないのだろう。

「温泉に来たからには最低3回は入りますよ!! 3回は必須です!! 義務だと思います!!」

そこまで温泉が大好きなわけではないが、頻繁に来れる所でもないので、入れるだけ入らないともったいない気がする。

一瞬たりともハンドルに触っていないワタシは、日下さんと違って、体力が有り余っている。 なんなら今日中に3回ノルマを達成出来そうだ。

「美肌を通り越してふやけるよ、美紗ちゃん」

と言いながら座布団に顔を埋めた日下さんの目はトロンとしていて、今にも寝てしまいそうだった。

「別にふやけてもいいですもん。 日下さん、夕食まで寝てていいですよ。 豪華海鮮料理の時間になったら叩き起こしますから」

クローゼットの中に浴衣と一緒に入っていたブランケットを日下さんに掛けると、

「優しく起こしてー・・・」

と願望を口にしながら、日下さんは夢の世界へ誘われて行った。