漂う嫌悪、彷徨う感情。


「旅行ですよ」

勇太くんも不機嫌に返事をする。

「・・・真琴か。 そうきたか。 個人情報保護なんかあったもんじゃないな」

勇太くんの返答に納得のいかない様子の日下さんは、更にイライラし出し、不満を零す。

折角の楽しい旅行が、旅館に入った途端に暗雲が立ち込めてしまった。

さっきの勇太くんの『旅行ですよ』に、ワタシの気持ちも盛り下がり出してしまう。

男の人が平日に1人で旅行・・・などするだろうか。

1人でないとすれば・・・。

「た・・・たまたま選んだ旅館が被っちゃっただけじゃないですか?? 予約は真琴ちゃんにしてもらったかもしれないですけど、ここの旅館のリーフレット、結構目立つところに置いてあったじゃないですか。 行きましょう、日下さん。 佐藤さんにもお連れの方がいらっしゃるだろうし、お邪魔しちゃ良くないですよ」

勇太くんはきっと、小田ちゃんと一緒に来たのだろう。

勇太くんと小田ちゃんが一緒にいるところなんて見たくなくて、どこかにいるだろう小田ちゃんが来ないうちにこの場を去ろうと日下さんの腕を掴み、引っ張った。

「場所は兎も角、日にちまで被る??」

ワタシの言葉が腑に落ちない様子で、その場から動こうともしない日下さんを、

「何故か不運が重なる様に、偶然が被る事だってあるんじゃないですか?! 早くお部屋に行きましょうよ!! ワタシ、夕食の前に温泉に入っておきたいんですよ!! 時間なくなっちゃうじゃないですか!! ただでさえ遅れて来ちゃったんだから!!」

力ずくで引きずり、勇太くんから遠ざけた。