「日下さんも。 気を付けて帰ってくださいね」
日下さんに手を振り返し、日下さんと別れた。
1人になり、安堵からなのか溜息なのか、ふいに『はぁ』と小さな息が漏れた。
兎に角疲れた。
張りつめていた気持ちが緩まったからなのか、涙が零れだす。
あれこれ考えて泣かない様に早く帰って寝たいのに、アパートに辿り着くまでに泣いてしまった。
「・・・辛いよ、勇太くん」
この悲しさから、苦しさから、いつになったら解放されるのだろう。
どのくらいの時間が経てば、勇太くんと過ごした日々を昔話に変えられるのだろう。
家路を号泣しながら歩けるほど、ワタシは大人気のない大人ではない為、とめどなく出てきてしまう涙をどうにかしようと、鞄からウォークマンを取り出し、イヤホンを両耳に突っ込んだ。
無理矢理気分を切り替えようと、疾走感溢れるロックを大音量で耳に、脳に送り込む。
音楽でも騙しきれないやりきれなさを、それでも騙されたふりを決め込み、なんとかアパートに着き、部屋のドアを開けた瞬間に泣き崩れた。
自分の気持ちを自分で騙すなんて器用な事は、不器用なワタシには相当に難しかった。



