ここで泣いたら、優しい日下さんはきっと慰めてくれるだろう。
日下さんに縋ってしまいたい気持ちもある。 だけど、ワタシは『嘘』は『嘘』のままにしたいんだ。 嘘を本当にしたくない。
今日の事が何かの拍子に勇太くんの耳に入ったとしても、ワタシは勇太くんに『他の男に泣きついたりしない女』だと思われたいんだ。
結婚出来なくとも、『ワタシは勇太くんの事が大好きだったんだ』という気持ちを、どうにかして勇太くんの心の中に留まらせたいんだ。
日下さんはワタシの事を『大事なところで計算しない』と言ったけれど、ちゃんとしている。 ワタシは性悪だから、この本心は口に出さない。
「日下さん、お腹空いてるんですよね?? そろそろ解散しましょう」
込み上げる涙を鼻水と一緒に啜り上げ、日下さんを見上げる。
「強がっちゃって。 今日の強がりアピールはなかなか良いよ。 涙目な感じ、グっとくるわー。 でも、美紗ちゃんって単純じゃないからなー。 今の美紗ちゃんに『オレの前で強がんなよ』って多分的外れでしょ?? 勘違い男になりたくないから、今日は帰るわ。 美紗ちゃんも気を付けて帰るんだよ。 辺り暗いから」
日下さんが、ワタシの頭を撫でていた手をヒラヒラと横に振った。



