漂う嫌悪、彷徨う感情。


日下さんの言っていた通りだ。

自分を散々虐め倒していた人間の血涙を絞る様な表情に、何かスッとした。

日下さんの目的も果たせたし、ワタシの無念も少し晴れた。

あとは適当に旅館のパンフレットを貰って『じゃあ、家に帰って検討しまーす』で店を出てしまえば良い。

それまでキッチリペテン師をやりきろう。

「突然変な同意を求めないでくださいよ。 店員さん、困ってるじゃないですか。 すみません。 あの、いくつかお勧めの旅館のパンフレットを頂けませんか?? 持ち帰ってゆっくり選びたいので」

真琴ちゃんへの嫌悪感は消えないものの、日下さんのおかげで恐怖感は薄まり、自ら真琴ちゃんに話しかけた。

「・・・こちらが人気の旅館になります」

真琴ちゃんが、頬の筋肉をピクピクさせながらテーブルの上にパンフレットを数枚並べた。

それを手に取り、

「ありがとうございます」

『じゃあ、帰りましょう』と日下さんに目くばせすると、

「来月予約取れる旅館はこの中にありますか??」

日下さんはワタシの手からパンフレットを抜き取り、真琴ちゃんと話を続けた。