漂う嫌悪、彷徨う感情。


当て付けでしかない日下さんの振る舞い。

この前まで大好きだったはずの真琴ちゃんにこんな事が出来てしまうほどに、日下さんにとって真琴ちゃんの電話はしつこく苦痛だったのだろう。

日下さんがワタシに優しくすればするほどに、真琴ちゃんの怒りはワタシに向くだろう。

怖くて怖くてどうすれば良いのか分からない。

ただ、この場を乗りきらなければいけない事だけは分かっている。 だから、必死で日下さんの彼女を演じる。

「ありがとう。 和馬さん」

が、そもそも女優ではない為、半泣きのどうしようもない顔をしながら椅子に座り、日下さんを見上げた。

そんなワタシに半笑いの日下さんは、

「どういたしまして」

とワタシの頭をポンポンと撫でた。

この『頭ポンポン』は、『頑張って』の意味だったのだろうけれど、傍から見たら『絶好調のラブラブカップル』に見えるだろう。 更に、日下さんはそれを分かっていてワザとやったに違いない。 だって、さっきから日下さんの口角が上がっているから。 日下さんは、女子並になかなかあざとい。