漂う嫌悪、彷徨う感情。


「あのー、今度彼女と初めて旅行に行こうと思ってるんですけど、何かイイトコ紹介してもらえませんか??」

たくさんカウンターはあるというのに、日下さんは腕にしがみ付くワタシを連れて真琴ちゃんのカウンターを目がけて歩き出し、真琴ちゃんに話しかけた。

気配で真琴ちゃんがワタシの方を見ているのが分かる。

でも、怖くて真琴ちゃんの顔など見られない。

兄の婚約者に彼氏を取られるなんて・・・考えただけで気が狂いそう。

日下さんの言った通り、この嘘は本当に面白くなるのだろうか。

今のところ、苦しくて心臓が痛いだけなんですけど。

「・・・どうぞお掛け下さい。 旅行は、国内・海外どちらをご希望ですか??」

さっきの『いらっしゃいませ』より明らかに声のトーンが低い真琴ちゃんが、右手を差し出してワタシたちを椅子に座る様促した。

「美紗ちゃん、どうぞ」

日下さんが『ワタシの事が大好きなジェントルマン彼氏』を装い、ワタシの為に椅子を引いた。