VS IV Omnibus2 パペット



 ハァハァ、と。

 プァンスが、涙を流しながら全身で呼吸を繰り返す。

 チナは、慌ててタオルを取り出した。

 駆け寄って、差し出す。

 サンドは──拒まずに受け取った。

 それで顔を拭いてやるのではなく、プァンスの手に握らせる。

 赤ん坊のように、彼女はそれをぎゅうっと両手で握り締めた。

 みな。

 心配しすぎなのだ。

 アルバは、二人をパペットだと慌てているし、この二人はチナを怖がるし。

 けれども。

 チナの頭の中のパズルが、この二人にとって邪魔だと言うのなら。

「プァンスが困るなら、綺麗に忘れるわ…きっと私なら出来るから」

 パズルなど、またバラバラに混ぜてしまえばいいのだ。

 はっと。

 タオルを握り締めるプァンスが、顔を上げてこっちを見た。

「やだ! やっぱやだ…チナ…忘れないで…私を忘れないで!」

 泣きながら、半端に成長してしまったプァンスが、チナに訴える。

「何度でも、プァンスって名前を私につけて! 王子様って呼んで!」

 パズルが、パチパチとはめこまれていく。

 忘れていた記憶──いや、忘れさせられていた記憶が、もう一度チナの中に組み上がっていくのだ。

 前回もこうして、彼らを危ない星まで運んだ記憶だ。

 彼女らは、人に素性を知られてはならない。

 だから、仕事が終わった後に、サンドが彼らに記憶処置を施したのである。

 パペットを運んだことなど、何も覚えていないように。