◎
プァンスの肩を抱くように、陰からサンドが現れた。
少し、怖い目をしている。
大きな彼が、チナを恐れている気もした。
「何にも怖がることなんてないのに…だって、私達、前にも会ってるでしょう?」
るるるん。
タルトを作るための、パウダーコードを押す。
ボウルを準備して、パウダーを入れる。
砂糖に小麦粉にバター。
順番にパウダーを用意しながら、チナは二人の方を振り返った。
「だ、だめだよ、チナ…」
プァンスが、不安そうな声を出す。
いつも、ご飯ご飯と元気のいい声を出す彼女が、震えている声を出すなんて。
何故、そんなにチナを恐れるのだろう。
彼女は、本当に調理くらいしか取り得のない女なのに。
「だめだよ…サンド…絶対だめだからね」
その震えを、プァンスは自分の夫にも向けた。
ああ。
恐れているのは、チナの記憶なのか。
彼らに会ったことがある、という記憶。
「心配しないで、プァンス、サンド」
チナは、タルトを作りながら、にこっと微笑んだ。
「私達は、カボチャの馬車よ…魔法がとけたら、ただのカボチャとネズミに戻るだけ…ちゃんと分かっているわ」
ピースがまたひとつ、チナの頭の中ではめこまれる。
「あ…あ…ああ…」
プァンスは、後ろ手にサンドの服をぎゅうっと掴んでいる。
いまにも、泣き出しそうだ。
涙より先に。
プァンスの髪が、しゅるしゅると伸び始める。
身体も、しなやかに伸び始める。
「……!」
異変に気づいたサンドが、そんな彼女を強く抱き寄せ──口付けた。
深く深く。
人目があるからとか、恥ずかしいとか、そういう感覚はまったくない。
そうしなけれならないのだと、チナに伝わってくる口づけ。
プァンスは言った。
サンドも、彼女の食べ物だと。
成長が──止まった。
プァンスの肩を抱くように、陰からサンドが現れた。
少し、怖い目をしている。
大きな彼が、チナを恐れている気もした。
「何にも怖がることなんてないのに…だって、私達、前にも会ってるでしょう?」
るるるん。
タルトを作るための、パウダーコードを押す。
ボウルを準備して、パウダーを入れる。
砂糖に小麦粉にバター。
順番にパウダーを用意しながら、チナは二人の方を振り返った。
「だ、だめだよ、チナ…」
プァンスが、不安そうな声を出す。
いつも、ご飯ご飯と元気のいい声を出す彼女が、震えている声を出すなんて。
何故、そんなにチナを恐れるのだろう。
彼女は、本当に調理くらいしか取り得のない女なのに。
「だめだよ…サンド…絶対だめだからね」
その震えを、プァンスは自分の夫にも向けた。
ああ。
恐れているのは、チナの記憶なのか。
彼らに会ったことがある、という記憶。
「心配しないで、プァンス、サンド」
チナは、タルトを作りながら、にこっと微笑んだ。
「私達は、カボチャの馬車よ…魔法がとけたら、ただのカボチャとネズミに戻るだけ…ちゃんと分かっているわ」
ピースがまたひとつ、チナの頭の中ではめこまれる。
「あ…あ…ああ…」
プァンスは、後ろ手にサンドの服をぎゅうっと掴んでいる。
いまにも、泣き出しそうだ。
涙より先に。
プァンスの髪が、しゅるしゅると伸び始める。
身体も、しなやかに伸び始める。
「……!」
異変に気づいたサンドが、そんな彼女を強く抱き寄せ──口付けた。
深く深く。
人目があるからとか、恥ずかしいとか、そういう感覚はまったくない。
そうしなけれならないのだと、チナに伝わってくる口づけ。
プァンスは言った。
サンドも、彼女の食べ物だと。
成長が──止まった。


