宮本の結婚式も終わり、季節はすでに秋の色に染まっていた。

 部屋にあるエアコンもその稼働率はぐんと減り、窓を開ける心地よい風が体に優しくまとう。

 大学もあと開催まで僅かとなった学園祭の準備に忙しくなってきた。

 僕ら文芸部も学園祭で販売する文芸誌と共に単行本に作り上げたライトノベル小説も出来上がってきていた。

 今年は5点のラノベを出店する。もちろん各々表紙絵や挿絵などもある、その中で一番目を惹いたのは、愛奈ちゃんが書き下ろしたイラストだった。

どの部員からも絶賛で、宮村ともう一人が書いた共に異世界を舞台にしたファンタジーを分筆した形で一冊の本として書籍化した。

 愛奈ちゃんのお腹は見る見るうちに大きくなり、お腹に赤ちゃんがいることが一目でわかるようになっていた。

 それにつれ、愛奈ちゃんも母親になると言う自覚が芽生えて来たのかもしれない、あの薬も今では半分以下に落としても何とも無くなってきていた。

その証拠に宮村を呼ぶときいつも「高ちゃん」と呼んでいたのが、時折「孝之」と呼んでくれるようになったと宮村はまた泣いて僕に言ってくれた。

 多分、赤ちゃんが彼女のお腹の中にいる間だけかもしれないが、宮村はそれで十分だと言っていた。

 来年、僕らが4年生になるころには、二人の子がこの世に誕生していることは間違いない。


 沙織は相変わらず勉強に没頭していた。たまには息抜きに僕のところへ来いと誘った。

 「うん、そうね。ちょうど行き詰まっていたから」

 そう言って来るも、僕の部屋でも辞書を開き調べ物をしている。

 そんな事が何回かあり、沙織を見るその顔も少し痩せて、何か自分を追い込もうとしている姿に、苛立ちを感じるようになっていた。

 そしてそれは、会うたびに感じる。沙織が僕を避けようとしている姿に。

 次第に強く感じる僕を避けようとする。沙織のその気持ちが募っていることを。

 
 そんなある日、僕は自分が書いた小説を読みながら修正を繰り返していた。沙織はテーブルでまた辞書をめくりレポートを書いている。そんな今の僕らには会話はあまりない。

 ただその空間に二人がいるだけ。お互いを干渉せずお互い自分の事をその場でやっているだけ。そんな空気が二人の間をさまよっていた。