抱きしめられてると理解した瞬間、頭の中が真っ白になって。

うえの、と耳元でささやくかすれた声にからだが震えて。

急激に上がる自分の体温と高屋から伝わるアルコールの香りにくらくらして。

気付いたときには高屋の腕を振りほどくようにして突き飛ばし、部屋の外へと飛び出していた。


……自分の行動を思い返してみると、たしかに嫌がっていたように捉えられてしまうのも無理はない。

実際、次の日の朝高屋から【実は俺ゆうべの記憶ないんだけど、もしかして家に送ってくれた?】なんてメールが来たときは正直ホッとしたのだ。

でもそれは、あんなことがあって単に高屋と顔を合わせるのが恥ずかしかったから。どんな顔をしていいか、わからなかったから。



「嫌じゃ、なかった。……逃げちゃったのは、びっくりして、恥ずかしかっただけ。高屋があのことを覚えてないってわかったときはホッとしたけど、でもそれ以上に、悲しくなったんだ」



ちゃんと自分でもわかってたし、それを不満に思ったことなんてなかった、けど。……高屋にとって私は、“女”じゃなくあくまでただの友達で。酔っ払って前後不覚にでもならないと、あんなふうに手を出そうともしないんだ。

そういえば、高屋は同期たちの前では「俺と上野は両思いだし」とか「上野はかわいいやつだなー」なんて冗談っぽく言ったりするけど。ふたりきりでいるときって、そういう類の軽口聞いたことない。

ああ、そっか。高屋の中の私って、ほんとは取るに足らない存在なんだ。

私って全然、高屋のトクベツじゃないんだ。