疑問形ではあるけど、私は確信していた。あのときは顔が見えない文字でのやり取りだったから信じたけど、もう騙されてやらない。

今日顔を見て話したら、すぐにわかったんだ。普段は憎まれ口ばっかりのくせに本当は紳士で実は臆病な彼の、ずるくてやさしい嘘のこと。


ぴったりと頬に高屋の体温を感じながら、静かに反応を待った。

私の言葉を聞いたとたん一瞬呼吸を止めた彼が、その後深く息を吐く。



「……よく、わかったな。そんなに俺わかりやすい?」

「さあ、一般的にどうかはわからないけど。少なくとも私は、顔を見て直接しゃべってたらちゃんと気付いたよ」

「さっすが上野、敵わねぇな。俺かっこ悪ぃー」



そう言って、高屋は小さく笑う。私が好きな、顔をくしゃくしゃにするいつもの笑い方じゃなくて、あまり見たことがない笑い方だった。

街灯が照らす薄暗い夜の空気の中、目を伏せてちょっとだけ口の端を上げるその表情はなんだか高屋を知らない人に見せて、私は思わず彼の肩を掴む手に力を込める。



「一応、訊くけど。なんで……忘れたフリ、なんか」

「だっておまえ、あのとき嫌がってたじゃん。だからもういっそ、なかったことにした方がいいと思ったから」



言いながら苦笑する彼の顔を斜め後ろから眺める私の胸は、さっきからずっと高鳴ったままだ。

ねぇ、それに高屋は、気付かないの?



「……違うの、高屋。あのとき私は、嫌がったんじゃなくて、」



2ヶ月前の、同期会の日。あのときも私と高屋は、こうしてふたり一緒に夜道を歩いていた。

ただ今と違ったのは、そのときひどく酔っていたのが高屋で、私が送る側だったってこと。


そして無事に彼をマンションの部屋まで送り届け、自分も帰ろうと玄関で背中を向けた瞬間。

私は高屋に、後ろから抱きしめられた。