「♪~~きっとあと爪先分だけ 踏み出したら出会える~~♪」




歌声のする方向に全速力で走って、走って、走って。


ようやく、光のそばまでたどり着いた僕の背中を、誰かにトン、と後ろから軽く押された。


振り返ると僕の背後には、幼稚園の頃の幼い姿をした唯夏ちゃんがいた。



『利一も、自分がしたいことをすればいいんだよ』



脳内で再生される、唯夏ちゃんの声。



「ありがとう、唯夏ちゃん」



僕が微笑むと、唯夏ちゃんも笑い返してくれた。


唯夏ちゃんの幻影が光に包まれて、だんだんと消えていく。


……戻らなくちゃ。


元の世界に。


僕を待っている人がいる、現実に。



僕は、光の奥に手を伸ばした。


指先に当たった黒い壁が、崩壊していく。


黒い壁の向こう側から、琉美先輩の歌声がよりクリアに聴こえてきた。