僕には少女に……姉さんに話しかける勇気はなく、家から離れた木の影から、静かに姉さんを見つめていた。
この距離でも聴こえてくる、姉さんの歌声。
心を惹きつけられるその歌に、僕の瞳は潤んでいった。
『……っ』
目からあっけなくこぼれ落ちた涙を拭えないほど、姉さんが奏でる歌に聴き惚れていた。
闇と化していた心情が、浄化されていく。
歌から伝わる、光り輝いている幸せの力で。
あんなに嫌っていたのに、気づけば姉さんの、歌の、虜になっていた。
……違う。
本当は、少なくとも姉さんのことは、嫌いじゃなかった。
自分すらも欺くくらい、羨ましくて。
純粋に、会いたくて。
ただ、それだけだったんだ。
でも、そんなこと、口が裂けても言えなかった。
お母様が許すはずなかったから。
僕が自由になれる時間は、ほんのわずかでしかなかったから。



