三月ウサギは恋をする!?


「大変だ、歩夢! どうやら対戦する高校の投手、プロ野球選手の息子らしいぞ」
「は?」
「つまり、会場の空気が完全に向こうへ飲み込められてるんだったば。努力のルーキーにって」

 対戦相手の観客席からとてつもない大きな歓声が起こった。月華学園の観客席からも、その野球選手のファンがいるのだろう。ちらほらとざわめき始めた。

 そうだ。完全に、今日の主人公は、努力のエース。

父が野球選手だとばれないように、それでいて違う県のわざと無名高校に入学し、腕を上げて来たのだ。
一年時から期待のルーキーとして近衛と競いあってきた野球で勝負するのならば県下一の月華学園に入るのが一番のはず。
無名高校で、強校の月華学園とライバルだと謳われるようなチームに育て導いたのが、今日の日までその身分を隠していたそのエースだ。取材陣は彼ばかりを映し、真実を知らされた両高校半分は歓喜し半分は動揺した。


 これが向こうの高校の作戦だったのならば些か汚いやり方だが、向こうのエースは悔しそうに帽子を地面に投げていた。誰かの話題性狙いか、策略なのである。近衛だけが、一人微動だにしなかった。

彼は有名な選手と月詠のエースのフォームが全く一緒であることから怪しいことに感づいていた。なので、彼の精神はそれぐらいでは揺らがない。


完全に流れは、親の名前に負けず三年間頑張ってきたエースを勝たせてあげたいと心を統一させた向こうの高校に飲み込まれていた。