東京本社のビル内には、各階に給湯室が用意されている。

給湯室、というよりカフェコーナーと呼んだ方がしっくりくるだろうカジュアル感のあるオシャレなレイアウトで、社員のリラックスする場所にもなっている。

コーヒーメーカーにエスプレッソマシーンも完備。

仕事の合間に一息つくにはなかなかにいい場所で、アイデアに煮詰まった時はここに来ることも多い。

今も、30秒という限られた時間の中で展開するストーリー案に煮詰まり、疲れた頭を一度リセットしようとエスプレッソマシーンのスイッチを押したところだ。

このエスプレッソマシーンはエスプレッソだけでなく、カプチーノも作ることができ、私が推したのはカプチーノのボタン。

まずはカップにゆっくりとエスプレッソが注がれていくのを見ていたら。


「調子は」


識嶋さんが入ってきた。


「少し行き詰ってしまって」


答えると、識嶋さんは違うと口にしながらプラスチックのカップを手に取る。


「体調の方だ」

「あっ、そっち! おかげさまでもう元気です」


他の人が入ってきたらまずいと思い、小声で「看病、本当にありがとうございました」と頭を下げた。