「へっ?」


何事かと目を開ける。

すると、私の頭上に識嶋さんが立って見下ろしていた。

しかも彼の両手は私の頭に添えられていて。

どうやらタオルで髪を乾かしてくれているようだ。

明瞭になった意識に慌てて体を起こすと、そのまま識嶋さんは私から離れてダイニングテーブルの上を指さす。


「あれ、食べたかったら食べろ」


それだけ言って、彼は早々に自室に姿を消した。

“あれ”の正体がわからず、私は立ち上がるとテーブルに近づいた。

テーブルの上に置かれている紙袋。

それは、私が好きなドーナツ屋さんのもの。

……病み上がり……というか、まだ病んでる最中にドーナツですかと突っ込みたくなったけど、私の好きなものを買ってきてくれたその気持ちが嬉しいから。

だから、素直に思った。

厳しいだけじゃない識嶋さんを、もっと知りたいな……と。