ギュッとこぶしを作った私は、背筋を正すと識嶋さんに頷いてみせた。 「協力します。やります、嘘の恋人役」 だから約束、ちゃんと守ってくださいね。 伝えると、識嶋さんは「もちろんだ」と出会ってから初めての微笑みを見せた。 不覚にも心臓が大きく波打って、私は思わず立ち上がりチョコレートのかかったドーナツを袋から取り出すと一口かじる。 普段、不愛想な人の笑顔の威力って 絶大だ。