「時間は有限だ。無為な時間を過ごさないように仕事に関係ない話はしないでもらいたい」


どうやら、その心配は無用だというのがその日のうちに発覚した。

多分、相馬先輩が零していたのはこのことなのだろう。

ミーティングの際に出たアイデアから、少しだけ話題が横道に反れた時、彼……識嶋さんが社員を叱ったのだ。

彼は家だけでなく、会社でもそのきつい性格で通してしまっていて、イケメンに弱い女性社員も出会いから数時間ですでに引いている状態。

それにしても……無駄は言い過ぎじゃないかな。

識嶋さんの言っていることは正論なんだけど、プランニングの時は横道に反れた話題からいいアイデアが浮かぶ時もある。

無駄な時間となるかどうかはわからないと私は考え、つい彼に物言いたげな視線を送ってしまった。

しかもうっかり視線がぶつかってしまって。


「なんだ」


識嶋さんの冷たい視線と威圧的な言い方に、私は苦笑しつつ「いえ、何も」と誤魔化した。

もしも、苦手な上司選手権があったなら、識嶋さんは間違いなく上位に食い込むだろう。

むしろ、私の中での苦手な人選手権ではトップに躍り出るかもしれない。

帰宅したら口止めをお願いしたいけど、この感じだとどうなることか。

いつもと違う変に緊張した空気でミーティングが進む中、私はそっと心の中でため息を吐いたのだった。