「違うの。それは私を悪者にして自分の立場を良く見せるように──」

「なんの為にだ」


突如、飛び込んできた刺々しくも聞き慣れた声に、私は視線を素早く動かし姿を探す。


「識嶋さん!」


いつからそこにいたのか。

スーツ姿の識嶋さんは、車寄せスペースの方から靴音を鳴らして歩く。

そして、優花ちゃんの前を通りながら唇を動かした。


「高梨に利用価値なんてない。ただ、俺にとって価値があるだけだ」


それは、とても嬉しくなる言葉。

けれど優花ちゃんは別の事が気になったようで首を傾げる。


「高梨……? 以前は名前で呼んでましたよね?」


問われた識嶋さんは、優花ちゃんを背に私の方へと歩みを進めていた足をピタリと止めて「ああ、言い忘れてました」と口にしながら彼女を振り返った。

そして──


「実はあの頃は恋人役になってもらってたんですよ。あなたとの結婚に利用価値はなさそうだったので」

「なっ……」


高圧的な容赦のない言葉に、優花ちゃんは火花を散らすように識嶋さんを睨んだ。