それに対して答えることができず、黙ったままの私に識嶋さんが静かな声で説明する。

今回の件で、もう西園寺のことは気にしなくてよくなるんだ、と。

確かに、今回の婚約のことは、そうかもしれない。


「でも、私は」


不安を口に出そうとすれば、遮るように識嶋さんが唇を動かして。


「邪魔にならないし、俺の為になるなら会社の為にもなる」


先回りをし、蹴散らした。


「本当、ですか?」

「俺は嘘が嫌いだ」


キッパリと言い放つ彼は、確かにそんな性格だ。

でも、ひとつ、私だけが突っ込める秘密がある。


「私に嘘の恋人役をやらせたのは誰ですか」

「本当にすれば問題ない」


真顔で答えた後、少しだけ悪戯っ子のような悪い笑みを浮かべた識嶋さんに、私は思わず頬を緩めた。

そうすれば、彼は手を伸ばし私の頬に触れて。


「高梨」


そっと引き寄せ、顔を近づけてくる。

優しくぶつかったの唇ではなく、互いの額。