識嶋さんがこんな風になるなんて、あの夜以来だ。

やっぱり識嶋さん、お酒飲んでるんじゃないのかな。

それなら、二人でお酒のせいにして、今だけはこのままでいてもいいかな。

抵抗する力を弱め、彼の胸に頬を寄せる。

トクトクと少し早い心臓の音に瞳を閉じれば、私の鼓動も同じように速度を上げていた。

──と、その時。

ふと何かの気配を感じて。

識嶋さんの肩越しに視線をやった瞬間、私は目を見開いた。

ワンショルダーデザインのドレスはベビーピンクで彩られ、とても愛らしくて彼女にはとてもよく似合っているけれど、その瞳の色は驚くほどに冷たくて。


「し、きしまさん、優花ちゃんが……見てます」


いくら恋人設定があるとはいえ、人前でいちゃつくのは恥ずかしいし彼女にも良くないと思い、彼の腕の中から出ようと身動く。

けれど──


「好都合だ」


暫くこのままで。

識嶋さんはそう口にすると、私をまた抱き締め直す。

恋人なのだと、わざと見せておくつもりなんだろう。

それなら、こちらからも抱き締め返さないと違和感があるのではと酔った頭で考え至り、私は彼の背中にそっと腕を回した。

刹那、識嶋さんが息を吞む気配がして。

抱き締めている腕の力が緩まったかと思えば。


「……美織」


掠れた声で、名前を呼んで。

視界が、識嶋さんで満たされて。

熱い吐息が、唇に触れる。