「何ですか?」
「お前のだ。早く受け取れ」
急かされ両手でビニール袋を受け取ると、中を覗いてみる。
すると。
「あ!」
私は喜びのあまり、思わず少し大きな声を上げてしまった。
けれど許してほしい、近所の方々。
何せ、袋の中には私が今から買いに行こうとしていたドーナツが入っていたのだから。
しかも全種類だ。
「これ、そこのコンビニですか?」
「ああ、全て残りひとつだった」
語られた奇跡に私は心の中で神様に感謝する。
普段から特に信仰している神様がいるわけじゃないんだけど、嬉しさに思わずしてしまった。
「ありがとうございます。でも、どうして急に?」
このドーナツを買ってくれたのはとても嬉しいけれど、その理由がわからずに首を傾げる。
すると、識嶋さんは私から視線を外して。
「これは、この前の詫びを──」
と、そこまで言いかけてから、彼は気を取り直すように頭を小さく振って。
「な、なんでもない。とにかく食べろ」
私の横を通り過ぎた。