──同日、帰宅途中。
識嶋さんのいないリムジン内は広すぎる気がして少し寂しい。
一緒にいれば毒を吐かれることだってあるけど、最近は受け流したり言い返すことが上手にできるようになっているからか、会話のない車内は静かすぎて居心地が悪かった。
でも、今日は仕方ない。
彼は今日、急遽お母様に呼び出されたのだ。
縁談相手と会わなければならなくなり、そこに社長も同席するとかで拒否することは難しかったと聞いている。
「ありがとうございました」
マンションの地下駐車場でリムジンから降りた私は運転手さんに軽く頭を下げた。
車はこの後また移動し、今度は識嶋さんを迎えに行くらしい。
お疲れ様ですと労いを口にすれば、運転手さんはありがとうございますと嬉しそうにお辞儀をしてからリムジンを出発させた。
それを見送ってから私はエントランスを抜けて部屋へと向かう。
「戻りましたー」
玄関を開けて中に入るとまずは自分の部屋へ。
椅子の上に荷物を置いて、おろしていた髪を簡単にまとめ上げるとダイニングへと移動した。



