手をかけたフェンスに新たな衝撃が走る。
さっきまで屋上は私一人のはずなのに。



ガンって鈍い音の原因は
コロリと足元に落ちたシューズ。


「そこ、立ち入り禁止だぞ」




低い声が私を刺して
恐る恐る振り向くと

片足で立つ

数学教師。


ふふっ。
少し滑稽。




「あー…靴取ってくんね?」



「霧山先生……」





私は黒い運動靴を拾い上げると
彼の元まで飛ばした。


低くカーブを描いたそれは
キチンと目的地まで届いてくれた。

私って天才かも。


「お前っ、投げるなよ」



ボサボサの黒髪をかきながら
靴をはいた先生は薄く笑った。



「何するつもり?」



スーツのいまいち決まらない霧山先生が私に近づく。

霧山先生は大人で先生なのに
だらしなさから、スーツ姿がかっこいいと思ったことはなかった。

ネクタイださいし。



そんな彼の今日のネクタイは
鱗みたいな柄の青系だった。

うーん。残念。

若くて顔も良いのに。



「すいません。黄昏たくて」




全く夕焼けじゃない空にウィンク。
真っ青な快晴は雲1つない


ムードがないなぁ。



いや、別に黄昏たかった訳じゃないからいんだけどさ。



「そうか。芹沢は面白いな」




ふだん接点のない先生は
不覚にも私の名前を覚えていてくれた。
びっくり。


だって私なんか
黒髪おかっぱ校則厳守の真面目な地味子だし。

教室できゃぁきゃあ騒ぐなんて夢のまた夢のような話だ。


すると先生は
私の隣でフェンスに手をかけ


「俺もよくここでタバコ吸うの」



「え………」



「うっそ。俺 タバコも酒もだめなの。って、JKにする話ではねぇな」



私のことを
あの異様に足を見せたがるスカートとバリバリ化粧して男釣る民族と同じ名称を使ってくれると思ってなかった。


あえて
学校は全面禁煙ですと言う突っ込みは無しにする。いくらなんでも野暮でしょう。



明らかにJK臭のしない私は
ぶんぶんと首を左右に動かす。


「先生こそ、何しに?」




「ん、俺?
規則破りを見つけたから注意しに来た。」




げっ。
やっぱ見つかるよねぇ。



「………残念だな、芹沢」



私の苦い顔から察したのか先生はニヤニヤ笑う。