純香さんの言葉もオフィスへ来ると一時的に忘れる。

先週見せたデザイン帳に描いていた玩具が、試作品開発に向けて動き始めたからだ。

叔父でもある部長からデザイン画を見せられた時、同じチームの主任は『ほっこりするね』と言ってくれた。

その話を大輔さんにしたら『良かったじゃねぇか』と笑っていた。


オフィスでは確かに先々週までのような働きにくさは減ったように思う。
部署の人達にも慣れてきたし、ゆっくりと話すなら吃らなくもなった。


ただ、慣れればそれなりに答えづらい質問もされてしまうことが増えてくるわけでーー。



「…ねぇ、乃坂ちゃんてカレシいるの?」


ちゃん付けで私のことを呼ぶのは、同じチームで働く本田さんという女性。
この間、チーム主任が私のことを愚痴ってた時に雑用を押し付けてしまえばいいと言ってた人。



「えっ、あの…」


本田さんより私の方が年上。サラリとウソでもついてごまかしておけばいいんだけど、残念ながらそういうのはニガテでできない。

口籠ったと同時にアガってしまい、かぁっと顔が熱くなってしまった。


「わぁー、正直すぎるその反応。オモシロ〜い!」


茶化されると余計にアガる。
熱くなった顔を背けると、今度は男性社員から揶揄われる。



「乃坂さんて純だよね〜」



返し方がわからず、その場に居られなくなってしまう。

これまでとは違う意味で緊張するパターンが増えて、それはそれで困った。