呆れ気味に呟くその言葉じりを察するに、歴代の彼女にも同じような嫌味を繰り返してきてるのかもしれない。


「手とか出されなかったか?」

「えっ!?そんなのなかったよ!」


まさか、そんな制裁までしてきてる!?


「それならいいんだ。純香は頭にくると結構直ぐに手が出るタチだから」


タバコを吸う彼女の姿を思い浮かべ、ヤンキーだったのは男性陣だけじゃなかったんだと知った。
顔を引きつらせてしまう私に目を向け、大輔さんは車を路側帯に停めて向き直った。


「純香が何を言ってきても信用するな。あいつが俺のことを全部知ってるわけじゃないし、ケイにしか話してないことだってある」



(…うん。それはちゃんとわかってる)


心の中で納得しながら先週末のことを思い出した。


お父さんの遺骨を預けたお寺で、大輔さんが堰を切ったように泣き出したこと。

どんなに恨んでも嫌っても、やはり大事に思う気持ちがどこかにあって、忘れられずにいたんだと知った。



「俺が素直に泣けんの、ケイの前だけだから」


そう言って近づいてくる顔を薄目を開けた状態で見つめる。
深い筋の二重まぶたがすぐ目の前に寄ってきて、初めて触れる瞬間がくると感じる。

柔らかく湿った唇が自分のと重なった時のドキドキは、あの夏祭りの夜とは比べものにならないくらいに膨れ上がった。