「社長はズルいです」


苦しくなっていくばかりの胸の前で、ぎゅっと手を握り締める。
こんな苦しさを感じるのは、この人がハッキリと言ってくれないせいだ。


「私は社長を好きだと言ったのに……どうしてハッキリと答えを出してくれないの……」


言い出したら涙が溢れてしまった。
泣かなくても話せることを涙を零しながら訴えてしまった。


「私は意味深い言葉よりも、単純な言い方の方が好き。社員を将棋の駒と称するような、頭の回転良さは持ち合わせていません!」


好きなら好きでいい。
お母さんの言った言葉よりも、社長の男としての声が聞きたい。



「社長は、私をどう思っているの……」


泣きながら顔を見つめるなんて、蛍ならともかく自分がする立場になろうとは思わなかった。

もっとずっと、ダメダメな男にグイグイと迫られることだけを夢に見続けてきた。

だから、今のこのシチュエーションは、理想との差があり過ぎている……。



社長は一瞬口籠った。
慣れないことを言わせようとする私に少しばかり恨めしそうな目を向ける。



「…さっきから言っているだろ」


泳ごうとする目線を外すまいとして、彼の両頬を包み込んだ。
ピクッと顔を引きつらせた社長の目が、私の眼差しに向き合う。


固く閉じられた唇が開いた。

出てくる言葉を全身で聞こうと努力した。