暗闇の中を走りながら優馬は考えていた。

 この町に巣食う呪いとは、一体何なのか。

 自分に偽りの記憶を見せようとしたのは誰だったのか。あれが生徒会長の言うところの龍神の呪いなのだろうか、と。
 
 たしかに、膨大な密度と量とを持った呪いは龍神がもたらす災いとして不足はないかもしれない。光を浴びたあの日見聞きしたものなど、今目の前に広がる光景に比べればほんの一部分に過ぎなかったのだ。

 けれども本当にあれが龍神の呪いの正体なのだろうか? 

 生徒会長によれば、村人たちに失望した龍神の恨み憎しみが呪いとなってこの町と町の人々を呪い続けていると言う。ではこれが龍神の呪いが具現化した姿なのだろうか。少しもピンと来なかった。

 龍神と言えば角を生やし、髭を生やし、硬い鱗に覆われた細長い身体に鋭い爪を持つ手足を生やした想像上の獣であり、水を司り恵みと同時に破壊をももたらす荒ぶる神。というのが優馬の認識である。

 この認識が正しいのであれば、例え長いあいだ結界の中に閉じ込められているとしても、あんなにも禍々しくグロテスクなものが果たして神である龍神の力の表れなのだろうか。そういう疑問をどうしても拭いきることができない。

 もう一つ。

 七瀬に関わる謎と言えば、何故七瀬は呪われずに済んだのだろうか。

 苗字こそ違ってはいるが、身体に流れる血は紛れもなく滝上一族のものである。だとしたら、七瀬の母親はともかく、七瀬だって呪われる可能性があったのではないか。

 では、七瀬はどのような理由で呪いを免れたのか。ただの偶然だろうか。そもそも、正明の呪いは実の子どもである七瀬に乗り移るのが自然ではなかったか?

 もし駆け落ちの目的が全く別のところにあったとしたら?

 優馬は一つの大きな真実にたどり着こうとしていた。