ここ数日で一斉に聞かれるようになっていたツクツクホウシは、夏休みの宿題を今頃始めたかのような大合唱を辺り一面に木霊している。が、夏の終わりを告げる忙しない響きさえ、今は却って境内の静寂さを浮き彫りにさせていた。

 ──あった。

 遊歩道の半ばあたりまで来たところで、優馬は遊歩道から少し入ったところにある藪に視線を向けていた。光を浴びたあの日、七瀬とともに奥に向けて分け行った小路の入り口である。相変わらず、小路の奥をうかがうことはできない。

 が、優馬は迷うことなく藪の中へと入っていく。なぜなら、途中に出会った幽霊たちがしきりにここを指差したのだ。幽霊たちを信じ走ってきたところ、どんぴしゃだった。

 もしかしたら、自分は騙されているかもしれない。恐ろしい脅威の元へと案内されているだけかも知れない。疑問がないわけではない。だが今は信じることにした。例え騙されているとしても、優馬が行こうとする場所は同じだった。

 七瀬は生贄になるために神社へと向かった。優馬はそう仮定していたし、仮定を裏付けるように七瀬は神社の奥へ向かっていた。だったら、七瀬が向かう先は分かり切っている。

 むしろ問題は別にあった。

 何故七瀬は何も言わずに行ってしまったのか。何故自分を頼ってはくれなかったのか。
 
 結局のところは、自分の力不足が招いた結果ではないのか。七瀬を一人にさせてしまったのは、自分ではないのか。己の未熟が情けなく、悔しかった。
 
 自分は七瀬の元へ辿り付けるのか。優馬が考えているのは、この一点だけだった。