私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。





「……だったら、席を替えようなんて…言わないよ」

「椿……そ、そっか…そうだよね」

「う、うん……そうだよ」


ぎこちなく笑う紗枝は、「そうだよね」と言いながらも、納得しているようには見えなかった。


お互いに、それ以上踏み込めない。

それは、相手が大切だからなのか、自分を守りたいからなのか、分からなくなっていた。


やだ、紗枝の顔ちゃんと見れない。
親友に嘘つくなんて、もう……私に、親友って呼ぶ資格なんてないよ……。


「椿、私達親友だよ」

「……紗枝……うん、親友だよ」


どうしてだろう。
こんなふうに確かめ合わないと不安になる。

大切なのに、今は紗枝が遠くに感じる。
嘘をついている後ろめたさに、私が遠ざけてるんだ、きっと……。


せめて、不安げな紗枝に何か言わなきゃ。
そう、ちゃんと、私は紗枝の親友だって証明をしなきゃ…。


「………紗枝の事、応援してるよ」

「……うん、ありがとう、信じてる」


信じるとか、信じられるとかって、すごく怖いこと。

だって、心の奥底では、信じられないから、せめて願いたいんだ、きっと。


「じゃあ、部活に行ってくるね」

「うん、頑張って紗枝」

「ありがとう、椿。行ってきます!」


笑顔で手を振り、教室を出ていく紗枝。
それを同じように笑顔を返して、見送った。


「……はぁ……」


姿が見えなくなると、力尽きたように、自分の席に腰掛ける。そして、どっと身体中に、疲れが襲った。