私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。



「……よく、ねぇ……」

「えっ……?」

一護、何言って……。

一瞬耳を疑って、つい声を上げてしまった。

「よくねぇ、勝手に呼び捨てにすんな。コイツは……その、俺の……」


俺の……何?
一護にとって、私はどんな存在なの。


「一護……」

「っ……椿……」


つい呼んでしまった名前に、一護も私の名前を呼ぶ。
その時間は、ほんの一瞬のはずなのに、とてつもなく長く感じた。


「あ、あのっ!!もう授業始まっちゃうよ!」

すると、紗枝が急に声を上げて、空気がガラッと日常を取り戻す。


「なんだ、残念!」

先程までの、好戦的な態度からいっぺんして、東野くんは、へラッと笑い、黒板の方へ向き直る。


「ほら、この話は終わりっ、ね?」

「紗枝……」


紗枝、なんか顔が強ばってる……。
辛いのに、笑ってるみたいな、そんな違和感。


私、また紗枝の事を不安にさせてる……。


「椿、放課後少しだけ話せる…?」

「あ……うん」


悲しげに笑った紗枝に、何も言葉が出なかった。

昔は、何でも話せて、考えてる事も手に取るように分かってたのに…。

今、私は……紗枝が必要としている言葉すら、分からないんだ。

チャイムが鳴り、始まった授業。

私は、モヤモヤした気持ちを抱えたまま、授業に集中する事が出来なかった。