私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。



***


「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか??」

「ブルーベリーチーズケーキと、深煎りコーヒで」

「でしたら、ケーキセットがオススメですが、いかがなさいますか?」

「あら、そうなの?ならそれで」

「かしこまりました」

注文をよそ行きの笑顔で受けて引き下がる。
カウンターへ戻ってくると、

「椿さん、今日もお客様に至福の笑顔を届けてちょうだいね」

「………はい、店長」

目の前でニコリと微笑む彼……彼女は、厳島 源(いつくしま げん)36歳。性別は……男と女の間、つまりはオカマである。

今日は割と空いている私のバイト先、『Cafe・FELICITE』(カフェ・フェリシテ)は、至福という意味らしい。

だからか、店長の口癖は『お客様に至福を届けること』だ。


「椿ちゃんの笑顔は今日も完璧だと思いますよ、店長」

「あら、瑞希くん」

「おはようございます、店長」


あ、瑞希先輩だ………。

そこに現れたのは、私よりも完璧な笑みを浮かべる一ノ瀬 瑞希先輩。

スッとした鼻筋にシャープな輪郭、整いすぎているその顔は、どこか華やかさがある。