好きな人を、真っ直ぐに想えたら良かったのに…。
これ以上、心を乱さないで欲しいのに、ちょっとした事で揺れ動いてしまう。
「椿、どうかした……?」
「えっ…」
「顔色、悪いから……」
「紗枝………ごめん」
紗枝の好きな人を好きになった事への罪悪感なのか、嘘をつき続ける後ろめたさなのか……。
何に対してのごめんなのか、自分でも分からない。
「少し、のぼせたみたい。紗枝、上がらない?」
「うん……」
先に立ち上がった私に合わせる様に紗枝も立ち上がる。浴室を出て、旅行の浴衣に着替える。
その間、お互いに腫れ物に触るかのような遠い距離で、会話もなかった。
ねぇ紗枝……。
私達は、いつまでこんな風に本音を言わずに嘘を重ねるんだろう。
私も、紗枝も本音を言えなくなったのは、いつからだっただろう。
大切な人だから、傷つけたくないから、嘘をつく。なのに、その大切な人は、悲しげな顔をする。
私の嘘は、紗枝を傷つけてるのかな…。
だからと言って、真実を話せばもっと紗枝が傷つく。
それだけは、絶対に嫌だった。


