「なぁ、今度藍生先輩が、瑞希先輩と俺らの知り合い誰か連れて旅行行かないかって言ってたぞ」
夕暮の道を2人で歩きながら、影が重なるのを見つめる。
旅行という言葉に驚いて、聞き間違いかと顔を上げた。
「え、そうなの?」
「あぁ、瑞希先輩も来るって……良かったじゃん」
「う、うん……」
あぁ……また。
ズキンッとひときわ胸が軋む。
自分がついた嘘なのに、その痛みにまだ慣れない。
「行くだろ?」
「うん……」
「後はー……紗枝とか、尚に声かけてみるか」
「そうだね」
私は、心ここにあらずで返事をする。
夢から、現実に戻ってきたみたいに、楽しかった時間が、なぜか全て切ない。
「じゃあ、ここで」
一護の家と、私の家に繋がる、2つの分かれ道で私は立ち止まった。
「送るって」
「大丈夫、まだ明るいし。またね」
「おう、またな」
私は、一護の誘いをやんわりと断って、一護に背を向ける。
幸福な時間は………覚めると、夢、幻になる。
いっそ、夢であればいい。
そう、きっとこれは私の望みが生んだ幻だよ…。
そう言い聞かせて、失った時の痛みを和らげようとした。
さよなら、楽しかった幸せな時間。
時は戻らないから、私は振り返らずに痛みを受け入れようと、歩き出す。
重なっていた2つの影が、離れてまた一人になった。
それを、寂しいと思いながらも、キミとの距離は遠ざかる。
この胸にある寂しさにも……耐えられる強さが、私あればいいのにと思った。