私はこうしていても仕方がないと、すくっと立ち上がる。

すると視界の端に人影がうつった。


それが先輩だった。

先輩は木にもたれて座りながら本を読んでいた。


私はとくに気にもせず歩き出す。

それを止めたのは先輩の一言だった。


「何で助けなかったんだ、とか、言わないんだね」

「…」


私は声を掛けられたことに少し驚いて、無言で立ち止まる。

先輩は本を閉じ私の目の前に立つ。


「責られるかなーって、思ってた」

「…どうしてですか」

「どうしてって、」

「あなたは何も関係ないし悪くないのに、責めたりしません」


極々当たり前のことを言う。
だってあなたは一つも関係ない。


「でもその場にいたら普通は止めるでしょ?」

「そうなんですか?普通とか、よくわからないから…」


友達も居ないし、誰も私を気にかける人なんていないから。


昔は友達だっていたけど、いつも、いつだって、私の知らない間に、私は傷付けていた。

だから友達も、親しい人も作らない。