マンションを見上げて、きれいなところだね、と他愛もない会話をする。車を出ようとすると、蒼佑くんが思い切ったように口を開いた。



「あのっ、百合子ちゃん! 今度、どこか出かけない? ……二人、で」

「え?」

「暇なときでいいから! ……お願いします」



 これはいわゆるデートのお誘いなのだろうか。

それはさすがに自惚れすぎか、と考えを打ち消して、「蒼佑くんが暇だったら」とあやふやな答えで誤魔化した。

よっしゃ! と小さく握ったこぶしが見えて、ほんの少しの罪悪感が募った。



「また連絡していい? あ、あと!」

「ん?」

「またこういう時間に仕事終わるんだったら、連絡してほしいな」

「……うん。ありがとう」

「ううん。おれのがありがとうだよ! 今日はいい夢見れそう!」

「ふふ、早く寝てね。私が言うのもなんだけど。遅くにありがとう」

「ううん、どういたしまして! じゃあね」






 その日をきっかけに、頻繁に蒼佑くんと連絡をとるようになった。

おはようとか、おやすみとか、今見てるテレビに出てる芸人が好きとか、用事がなくても気軽にLINEするくらいの関係には進歩した。

ただし、何を返信すればいいのかわからなくて、3回に1回くらいの頻度でしか、返さなかったけど。




 3人で会った日に、瑞樹とつき合っていたことが思わぬ形で発覚してしまったことで、瑞樹との仲を不安視していたけれど、考えるだけ損だったらしい。

今日瑞樹と飲みに行ったよ、とか朝から瑞樹に会っておいて帰りも一緒になったとか、隠そうとする様子もなく、またそれに限らずいろいろなことを話してくれた。


私のことにしても、いろんなこと教えてと聞かれたことには答えていたけど、しかしながら、瑞樹とつき合っていたことには触れて来ず、不思議に思っていた。

蒼佑くんの性格なら、素直に聞いてきても不自然ではないはずなのに、と。











 ——そんなある日。



「百合子ちゃん、水族館行かない?」



と、お誘いを受けた。お互いの予定をすり合わせて、双方が休みの土曜日に会うことになった。